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スピッツ ひみつスタジオを聴いて(その1)

 大ヒットを記録したコナン映画の主題歌「美しい鰭」が収録されているスピッツ17枚目のアルバム「ひみつスタジオ」。
 最初に聴き、クレジットを確認して思ったことは、
「超強力な女性(女声)陣にバックアップされたアルバムなのね〜」
 ということですかね。

 列挙するなら、
 「未来未来」の朝倉さやさん(彼女の声がなければこの曲は成立しない)、
 「讃歌」のコーラスの佐々木詩織さん、
 「美しい鰭」は(言うまでもなくコナンレジェンド声優)高山みなみさんと林原めぐみさん、
 そしてカバーガールの井上希美さん。

 井上さんは歌ってないじゃん、という声が聞こえますので一応注釈を加えると、彼女は劇団四季美女と野獣」のベル役を演じた、堂々と主役張って ”歌える” 元女優さんなので、(wikiを拝見するといろいろ興味深い)
このアルバムは全編に渡ってずっと、彼女の声が優しく響いていると言い切って構わないと思う。
 でも井上さんはどの曲でも歌ってないじゃん、という再びの声が聞こえますが、今回の彼女は、耳で聴くタイプのものではない歌を歌っているのです。
 もし貴方の目の前にアルバムのジャケがあったら見てみて欲しいのですが、
 今回のアルバムのテーマカラーであるこの黄色、ばっちりベルのドレスの色です。

 

 「ひみつスタジオ」は、これまでの「醒めない」「見っけ」と併せ、「異形のものと私」をテーマとした三部作最終章となっている、というような内容のコメントがメンバーからあったようですが、
美女と野獣」、そのまんま、異形クリーチャーと私、ですよね。
 引退した女優さんをわざわざ引っ張り出して起用したその理由って、カバーモデル当人においてもこのテーマを表現することを強く意識したからなのではなかろうか。 
「真実はいつもひとつ!」とは言い切れないけど、これってそこそこ有力な仮説と言えるのでは?

 まあこれは何というか、推理というよりむしろ連想ゲームの類ですので(ジャケ見て井上さんのwikiを確認すれば5秒で出てくる)、絶対私以外にも仮説立ててる人、いるはず。
 でも目立つところに上がってきてない(少なくとも私は未確認)ところを見ると、こうした視点の物言いって現在、世間的にあまり需要がないのかもしれないなあ。

 で、ちょっぴり悲しくなりながらその線で推していく(←推測の方の「推し」です)と、他にも異形クリーチャー、いろいろ出てきますね。

 朝倉さんが参加している「未来未来」、彼女の声は映画「ブレードランナー」の近未来設定に現れる、ジャパナイズな広告のサウンドがイメージだ、とかいうコメントもあったらしい。
 そういえばあの映画のテーマって、「レプリカントと人間(で、人間とそうでないものとの違いって何?)」的なものでした。
 「さびしくなかった」のイメージソースとなったという「ヒア・アフター」は、「(普通の人と違う)霊能者と僕」な映画だったしなー。
 こうした幾つものイメージレイヤーを念入りに重ねた上での、「異形のものと私」なわけですね。
 というか、そういやコナン君と哀ちゃんも「(普通の人と違う)異形の能力者」じゃないですか・・・。

 

 普通の人間と違う、でもとても人間的なもの(美女と野獣の野獣然り、ブレードランナーレプリカント然り)を、「ひみつ(の)スタジオ」で制作側が創り出したかったと考えると、
 どうかな? i-o君はそうしたテーマをちゃんと背負い切れているでしょうか。
 先に言ってしまうと、コナン映画の主題歌を、当初候補のひとつに挙がっていたi-o君の歌ではなく、美しい鰭にしたのは正解だったと思います。
「異形のもの」に寄り添う「私」を描いた(つまり「名探偵コナン」によりふさわしい)曲は、やはり美しい鰭の方だったので。

 

(続く)